アルバムの写真は、
時の流れとともに色褪せ、
やがて記憶の片隅に埋もれて行く。
けれどその中にあっても、
いつまでも鮮明に、
そして鮮烈に残るワンシーンがある。
思い出とともに蘇る、
ワンシーン――
その印象が、
鮮やかであればあるほど
心の中にセピア色の陰影を
深くしっかり刻み込んでゆく。
僕にとって、
セピア色の思い出は、
いくつあるのだろう。
5月ーーー
春の陽射しが心地よい季節――
我が家の庭も花が咲き乱れて春爛漫。
今頃の季節は、
色鮮やかなチューリップに、
ムスカリ、ラベンダーやクレマチスなど
紫の花が彩りを添え
新緑が眩い季節を迎えます。
生垣のドウダンツツジは、
萌黄色の若芽を吹き出し、
可憐な白い花を付けて
今や春は真っ盛り。
楓も新緑の季節を迎えました。
それとともにどこからともなく
つがいの鳥がやってきて、
気忙しく羽ばたいて、
愉しげに囀ります。
我が家の楓は止まり木らしい。
春はこうして色々な鳥がやってきて、
梢の上で羽を体めます。
春や春、いざ酔う春――
春は優しく、そして愉しい。
春は恋の季節でもある。
冬ごもりの季節を終えて、
町にも新鮮な息吹が満ち溢れる。
入学式、新学期に入社式。
新しい門出に夢が膨らむ瞬間。
そんなとき出逢いもある。
こんなこともありました。
新年度を迎えた4月のこと。
いつもの時間の、
いつもの電車。
通学時間の道すがら
途中駅で乗ってくる女の子。
その瞬間、
さわやかな風が吹いて
新入生かな・・
と思いながら、
胸をときめかせたものでした。
友人も次の駅から乗って、
彼が流し目で呟いた。
ーーもしかして好きなんじゃないの・・。
けれどその後も
声をかけることなく自然消滅。
ほんの一瞬に咲いた恋の仇花で
淡い想いが胸をかすめる。
思い出のワンシーン――
振り返れば
いくつかの風景が甦り、
そのひとつひとつに
そのときどきの想いが重なる。
人生の教訓であり、
心震わす感動であり、
切ない想いもあるだろう。
その風景に想いを託して、
思い出の一齣を振り返る。
時には友人のお節介に
しゃしゃり出たこともある。
大学のクラスメートで、
福岡の有名進学校出身の彼は、
ナイスガイなのにシャイ。
あるパーティで女の子に出逢い、
ひと目ぼれしたという。
しかし彼女の住まいも、
彼女の電話も、
なにもわからないまま、
その場を後にしたという。
でもその子のことが忘れられず
西武線の豊島園から通っているという、
ただひとつを手がかりに
豊島園駅で待つことにした。
その日は昼頃からタ方まで
二人で駅のホームで待ったが、
彼女の姿を見つけることができず
諦めることになった。
そんな思い出も、
彼にとっては苦味を伴う
懐かしいものになるのだろう。
そんな時代の、
青春という名の心の鼓動。
その鼓動のひびきが、
ときにほろ苦く、
ときに切なく、
ときに優しい。
そんな時代を経て、
大人になって、
昔を懐かしんでいる。
そして、
あれが青春だったなと振り返る。
2018.5.14