化粧する女

東急電鉄の
動画広告が話題になったことがある。
――都会の女はきれいだ。
       でも、ときどき、みっともない。
・・電車の中で化粧はやめよう
というもの。
ツィッターではそれに、
――なんでそんなこと言われなきゃならないの、
と女性陣から顰蹙を買っているそうだ。
でもそれも程度問題。
僕自身、こんなことがあった。
宇都宮で用事を終えて、
母校の大学へ向かう途中のこと。
少し早めに宇都宮駅を出発して東京に向かった。
3時頃だった。
宇都宮駅から湘南新宿ラインに乗り、
車内はボックス席。
乗車したときは空席が目立ったが、
駅に停車するたびに乗客が乗り込んできた。
乗車して30分ほどたった頃だろうか、
ボックス席の目の前に一人の女性が座った。
歳の頃は30代前半か。
まぁそれはいい。
やがて手提げ鞄をひらき、
アイシャドーを塗り、
パフを手にして念入りに化粧を始めた。
我慢する。
まぁ5分もすれば終わるだろう・・。
しかしその期待も虚しく、
女はひたすら化粧に興じる、
それも入念に。
見れば手荷物の中には化粧道具が一式並んで、
他の乗客が見ているのもに構わず、
ひたすら手鏡を手に化粧している。
塗る、染める、鏡を見てチェックする、
そしてまた塗る・・
――ふざけんじゃねぇ。
俺の前で化粧なんかするな。
そう思いつつひたすら我慢。
とき折り睨む。
しかし意に介さず他の客も見て見ぬふり。
我慢しているのか、
気にするほどじゃないというのか・・。
不思議な光景だった。
栃木から埼玉を経て、
都内に至るまでの1時間以上、
ただひたすら化粧する女。
よっぽど文句を言ったろうか!と思った。
我慢できないことははっきり言うべし。
しかし、なんと言えばいいのか、
その捨て台詞に迷った。
――そんなに化粧したって、ブスはブスだ。
無駄だ、やめろ!
それとも幾分、紳士的に、
――周りの皆さんにご迷惑ですよ、
やめた方がいいのでは・・。
とでも言えばいいのか。
しかし周りがその声にシラーッとしたら、
俺の立場はどうなるんだ。
そんなことが頭をよぎる。
コイツ夜の蝶に違いない、品がない。
池袋では降りるだろう・・。
しかし降りない。
新宿なら降りるだろう。
またも降りない。
結局は渋谷でルンルンして降りた。
あの苦痛の1時間、
迷惑料がほしいくらいだった。
そして関東沿線の条例で
「電車内の化粧禁止!」の1項目を加えてほしい。

だから東急線の公共広告に拍手喝采。
賛同の大きな一票を投じる。
最近は電車内の化粧はそれほど珍しくない。
多少の我慢はしても、
それも程度問題。
苦々しく思いながらも
大半の乗客はなにも言わない。
湘南新宿ラインの一件から、
それほど経っていないとき、
平日に山手線に乗ることがあった。
その時は出勤時間のピークを過ぎて、
それほど混雑していない。
しかし山手線は朝の通勤時間帯は座席を上げて、
乗客は全員立ち席となる。
電車内の中央にポールがある。
揺れる車内で、人を支え、車体を支える。
そのポールに女がしがみついている。
そしてバッグの中から化粧道具を取り出す。
そこは車内のど真ん中。
ステージであればスポットライトを浴びる中央舞台だ。
そこを陣取った女は、
化粧道具を出して化粧を始める。
俺だって鬼じゃない、蛇じゃない。
人並みの情けはある。
しかし、こういう類の女は逮捕したい、
人間として認めたくない。
人目をはばかるという感覚がなく、無神経。
傍若無人の輩。
女らしさのかけらも感じない。
お前だって鏡、持ってるんだろう?
見せびらかして、
こんなところで化粧する面か!・・
なんて言ってみたい。
しかし都会の人間は紳士淑女ばかりなのか、
悪態を突くこともない。
けれどテレビや新聞では、
電車の中で化粧する女の人が増えましたなぁ、
なんて言っている。
それを言うくらいなら
公共のメディアで
正面切って言ってほしい。
・・・ということで、
車内広告は偉い。

 

 

 

 

 

 

 

2018.11.19