海街Diary―
映画館で観て、
往復の飛行機でも観てしまった。
この映画、
世間的な評価はイマイチですが、
いい映画だと思う。
コミックを原作にした四姉妹の物語で、
鎌倉に住む三姉妹のもとに、
15年前に家を捨てた父親の訃報が届く。
山形の田舎には、
後妻との間に腹違いの中学生の妹がいて、
葬儀に参列する姉を駅で迎える。
初めて逢う妹はしっかりしていて、
父親を亡くした悲しみに耐え
気丈に振る舞う。
妹の母親は既に他界し、
後添えの母親も頼りない。
そんなこともあって
長女・幸は見送りに来た妹に、
――すずちゃん、鎌倉に来ない?
一緒に暮らさない、4人で。
と声をかける。
妹は一瞬ためらうが、
電車の扉が閉まる瞬間、
――行きます! と応え、
走り去る電車を追いかけながら手を振る。
こうして4人姉妹の共同生活が始まる。
しかし末の妹にとって
新しい生活は全てが順調とは言えない。
叔母は、
――あの人は妹は妹だけど、
あんたたちの家庭を
壊した人の子なんだからね、
と言い、それに、
――自分がいることで傷ついている人がいる
と呟き、
――奥さんがいる人を好きになって、
お母さんよくないよね、
と自分の存在に思い悩む。
長女・幸はそんな妹の心の傷を癒すように、
――ここにいていいのよ、ずっと
と言って抱きしめる。
そんな風にして、
さりげない日々を過ごしながら、
家族の絆を深めていく。
最後の場面で4人姉妹は、
鎌倉の海岸に行ったとき、
長女・幸は父親への恨みを解き放すように、
――お父さん、いい人だったかもね。
こんな宝物を
私たちに残してくれたんだから、
と言うと二人の妹も頷く。
温かい情が通い、
それまでの心の棘が
ほどけていく瞬間だった。
そんな映画を観たせいもあるのだろう。
ツアーの中の新婚さんが目を引いた。
今回のツアーは16人。
大半は人生のベテランというべき人で、
その中に一組の新婚さんがいて、
それが新鮮で、
ひときわ精彩を放った。
僕らは人生に思い悩む歳でもない。
しかし一方で海街Diaryのように
16歳にして
人生のあらゆる局面に出会う人もいる。
新婚の二人も新たな一歩を踏み出して、
これから苦しい場面に出遭うかもしれない。
人生は必ずしも順風満帆とばかりはいえない。
それでも生きることに頑張れば、
どこかに新しい道が拓かれ、
幸せになることができる。
なによりも諦めないこと。
小さな幸せの中に
生きることの意味を見出すこと。
それが大事だろう。
村上春樹のエッセイに
「小確幸」という言葉がある。
小さくても確かな幸せ。
本来の意味は少し違うかもしれないが、
日々の中の
小さくても確かな幸せを積み重ねることで
幸せを掴むことができる。
家族の営みとはそうしたもの。
なにげない暮らしの中に
小さな感動があり、
家族の情を深め、
それを紡いでいくことで、
あしたという日に繋がっていく。
ツアーの中の二人の姿は清々しい。
寄り添うように思い遣り、
さりげない言葉に優しさが滲む。
そんな姿を見ながら
彼らのあしたが見えた気がした。
優しい心、思いやる心。
彼らにはそれがあると思う。
新婚の奥さんが車酔いをして
ホテルの夕食をとらなかったことがあり、
そのとき二人で話をしたことがある。
――いい人見つけたね。
と言うと嬉しそうに笑い、
――どっちが積極的だったの、
と問うと「僕です」と答えた。
彼らは某市役所に勤める同期入社の29歳。
最初、彼女に出会ったとき、
――こんな人がまだいたんだ、
と思ったそうだ。
自分が思い描いた人、
理想とする人。
多分、一目惚れだったのだろう。
それからどれだけの付き合いが
あったか知らないが、
二人で愛を育んできたのだろう。
添乗員さんによれば、
北欧ツアーに参加する人は、
旅慣れた人が多いという。
僕らもその類といえるかもしれない。
それだけに若い二人が
北欧ツアーに参加したのは意外だった。
一番人気はイタリア。
某旅行会社でも半分はイタリアだそうだ。
若奥さんはイタリアに行ったことがあり、
北欧は二番手の候補地だったのかもしれない。
ともあれ、
そんな二人の姿を見ながら、
心から幸せになってほしいと願った。
2018.11.9
