◆5月20日(水)
/コッツウォルズ
コッツウォルズ。
蜂蜜色した石造りの家が並んだ
この辺りをそう呼ぶ。
ロンドンから車で2時間。
羊毛業が盛んだった。
この付近には、
こうした石灰岩の切り出し地があり、
昔からその石で家が造られてきた。
あたり一面には小高い丘に牧草地が広がり、
その合間に森が点在する風光明媚なところ。
今は観光地として広く知られ、
海外から多くの人がやって来る。
しかしロンドンの人はともかく、
イギリス人でも、
コッツウォルズを知らない人がいるという。
ロンドンに住む人にとって、
コッツウォルズに住むことは、
ステータスであり、
憧れでもある。
週末の別荘として、
あるいはリタイア後の生活の場として
此処に住みたいと切に願っている。
コッツウォルズは、
今ではイギリスを代表する観光地。
ブロードウェイ、
ボートン・オン・ザ・ウォーター、
バイブリー、
チッピングカムデンなどの町があり、
数百年を経た今でも、
昔ながらの石造りの家が並んでいる。
それがまた町の人の誇りであり、
ナショナルトラスト運動の
保護地にもなっている。
◇マナーハウス
/リゴンアームズ
前夜と翌日は、
リゴンアームズという、
マナーハウスに宿泊した。
マナーハウス、
あるいはカントリーハウスは、
日本人には馴染みがないが、
かつての荘園領主や
貴族の住まいをホテルなどに改築したもの。
リゴンアームズもそのひとつで、
ホテルとしてのランクも高い。
けれど、行く前に
NETで宿泊者の口コミを見ると、
ーーこのホテルを見てがっかりした。
古くて薄暗い、と書き込んでいる。
そんな人は此処に泊まる資格がない。
築後400年を経ても、
その当時の造りを残し、
いかにも古くていかめしい。
しかしその分、貴族がどんな家に住んで、
どんな暮らしをしていたか
垣間見ることができる。
貴重な経験だと思う。
大勢の人を招いたといわれる
シャンデリアのある大広間は、
今はレストランとして使われている。
リビングや部屋に通じる廊下は、
歩く時に軋んで、
ぎしぎし音がするが、
それが却って
この館の歴史を感じさせる。
古い歴史を刻む館。
それがこの日の宿、リゴンアアームズ。
ブロードウェイにある。

◇ボートン・オン・ザ・ウォーター、
バイブリー、チッピングカムデン
この日は、
コッツウォルズの町を訪ねた。
ボートン・オン・ザ・ウォーターは、
バイブリーと並んで
コッツウォルズを代表する町。
町の中心には小川が流れ、
せせらぎの音を聴きながら
川沿いのベンチに座り
ゆったりとした時間を過ごす。
ベンチは大きな木で陽射しが遮られ、
木漏れ日がさしこんで
心地よい風を運んでくる。

ガイドさんによれば、
この日、観光客は少ないという。
いつもは川沿いに人があふれ、
ラッシュアワー状態。
とりわけ中国人観光客が多い。
ガイドさんは、
中国人観光客について
こんな話をしていた。
彼らの多くは観光ではなく、
買い物が目的。
土産物店に雪崩れ込んで、
我先にと他の観光客を押しのけて
買い漁るという。
日本人もかつてはそうだったのだろうか。
バイブリーは、
コッツウォルズらしい景観があり、
小さいながら美しい町。
川の流れの中に黒い白鳥がいて、
小さな白い白鳥を嘴で突いて
押しのけていました。


◆5月21日(木)
/バース~ストーンヘンジ
南下してバースへ。
バースはイングランド西部にある
世界遺産の町。
日本人には馴染みが少ないが、
イギリスでは、
ロンドンの次に観光客が多い。
バースといえば古代浴場跡が有名。
英語の「bath」の語源にもなっている。
いかにも映画「テルマエ・ロマエ」の
阿部寛が登場しそうなところで、
イギリスに居ながら
ローマ遺跡を見ることができる。
市内はバスで巡回したが、
坂が多く、狭い道を曲がりながら
目的地を目指した。
車窓から見る街並みは美しく、
風格のある建物が歴史の重みを感じた。
とりわけ異彩を放っていたのが、
サークルとロイヤルクレッセント。
18世紀に親子二代で造られた建造物で、
今でいう集合住宅。
広々とした芝生に囲まれ、
陽射しがさす昼間は、
街の人たちの憩いの場になっている。
此処で写真撮影。
この日この時この場所に
俺はいたんだという痕跡を残す行動で、
犬のマーキングに似ている。

バスは市の中心部に移り、
ローマ浴場跡を目指す。
バースは古い都市。
遡れば紀元前に温泉が信仰の対象として
使われていたという。
しかし、本格的に浴場として
使用したのはローマ人。
西欧の歴史は古い。
イギリスもローマ帝国に
支配されていた時代があり、
彼らは温泉があるのを知って
浴場を造ったらしい。
とは言っても、
古い遺跡は戦争で焼失し、
現在の建物は再建されたもの。
いかにも昔から浴場があったように
建てられている。
遺跡は町の中心の
賑やかな場所にあり、
これがローマ浴場跡ですよ、
と言われなければ
見落としそうな目立たない建物だった。
古い建物が並ぶこの町では、
特別なものではなく、
むしろ隣りにある教会の方が、
存在感を示していた。
しかし一歩その中に足を踏み入れれば、
ローマ時代にタイムスリップしたような
そんな錯覚に陥る。
それは想像をかきたてる。
当時の人たちは、
それを信仰と交流の場としてきた。
ヨーロッパには、
日本のような公衆浴場があるわけではなく、
広い温泉で入浴する習慣も少ない。
そんな国の、そんな時代に、
彼らはこの浴場を
どんな風に利用したのか。
人と人が交わる交流の場として
裸の付き合いがあったのだろうか。

◇ストーンヘンジ
バスはハンドルを切り、
ストーンヘンジを目指す。
ストーンヘンジは先史時代の遺跡。
イギリスの中でも、
最も有名な風景のひとつで、
建てられたのは紀元前2500年頃。
しかし、この遺跡には謎が多い。
30個以上の巨石群で、
円状に直立して建てられ、
大きな石は40tにもおよぶ。
500km西の遠方から運ばれてきたという。
ではそこまでして、
何のために造られたのか。
どんな風にして建てられたのか、
といった点は今も謎のまま。
ある種の宗教行事のためだろう、
と推測されている。
高い天文学の知識があったのでは?
ともいわれている。
しかし、それを証明する証拠がない。
遺跡から状況証拠を集めながら
紀元前の謎を迫っている。

2018.10.22