◆5月18日(月)
/湖水地方~
旅を愉しく、
より魅力的にするには、
旅先のイメージを膨らませて
そこに想いを馳せることでしょう。
この日は湖水地方を巡る。
イギリスの田舎は美しく、
とりわけ湖水地方や
コッツウォルズは美しい。
緑一面の牧草地に、
なだらかな丘がうねり、
牛や羊の群れが草を食む。
いかにもイギリスらしい
のどかで美しい風景が広がっていました。

そんな風に
バスから外を見ていると、
こうした風景を遮るものがない。
看板やガードレールがなく、
電信柱もない。
もとある自然の、
そのままの姿がある。
その理由は、
湖水地方に行ったときに知った。
ガイドさんいわく。
イギリスはナショナルトラスト運動に
取り組んでいます。
そしてその先駆者が、
かの有名な「ピーター・ラビッド」の作者、
ビアトリクス・ポターだという。
彼女の生い立ちは、
映画館で観たことがある。
「ミス・ポター」という映画だった。
裕福な家庭に生まれながら、
引っ込み思案で、
家の中に閉じこもり、
絵を描くが大好きで、
昆虫が大好き。
そうした小動物と暮らすことを
夢見ていた。
それが湖水地方の彼女の家、
ヒル・トップだった。
ロンドンという大都会に育ちながら、
自然を慈しみ、
自然とともに生きたいと、
この地を永住の地とした。
彼女の描くピーター・ラビッドは大ヒット。
彼女はやがて巨額の富を得るが、
自然を愛する彼女は、
自然保護のために
広大な土地を
ナショナルトラスト運動のために
提供することにした。
この運動の聖地が、
この日の訪問地、
ウィンダミアーー。
人工物を排除し、
徹底した自然保護活動を行っている。
ウィンダミアは、
美しい自然に恵まれ、
ポターの家もまた、
かつての姿そのままに残されていました。
緑一面の牧草と、
ほんの少しの野菜畑。
のどかで美しく、
人と、動物と、自然が共生する風景。
それが、ヒル・トップ。
いかにも、
いたずらっ子のピーター・ラビッドが
飛び出してきそうな、
そんな自然に恵まれた所です。




湖水地方は、
美しい自然を背景に、
遊覧船を湖水に浮かべ、
蒸気機関車がのんびりと走ります。
この日はあいにく朝から雨。
午前中は、
ひたひたと降り続いていました。
バスに乗り、
船着場のレイクサイドから遊覧船に乗って
30分ほどで
蒸気機関車の待つ港に到着。
いかにも『機関車トーマス』と
いった感じの機関車で、
もっぱら観光用。
15分ほどで終着駅に到着しました。

その後、
カントリーハウスに寄り、
アフタヌーン・ティーで舌鼓・・

◆5月19日(火)
/ハワース~
この日は移動日。
ハワースから、
ストラスフォード・アポン・エイボンまで
500kmを7時間で走り、
その途上で二つの観光地を巡る。
ひとつがハワースで、
もうひとつが、
ストラスフォード・アポン・エイボン。
ハワースという地名は、
ほとんど耳にしたことがない。
しかし、シャーロット・ブロンテと
エミリー・ブロンテ姉妹が生まれ育った所、
といえばわかるだろうか。
姉のシャーロットは「ジェーンエア」を、
妹のエミリーは「嵐が丘」を執筆した。
嵐が丘はドロドロした復讐劇で、
ヒースクリフという主人公が、
かつて愛した人や、
その家族に復讐を遂げるというもの。
ブロンテ姉妹は、
30歳前後で亡くなりましたが、
この二作はともに、
二人が27歳のときの作品。
凄いと思う。
これほど内容の濃い作品を、
この歳で書いてしまった。
実際に見たハワースは、
イギリスの田舎といった風情で、
嵐が丘のような
惨劇が演じられる印象はなかった。
そこは虚構と現実の世界。
ブロンテ姉妹の繊細な感性と
豊かな創造の賜物でしょう。
もう少し長生きすれば、
さらに優れた作品を世に残したと思う。

さらに南下して、
コッツウォルズの北の果て
ストラスフォード・アポン・エイボンへ。
この町はシェイクスピアの生誕地。
彼の活動の拠点はロンドンでしたが、
引退後はこの地に移り、
余生を過ごしたと言います。



◇シェイクスピア
シェイクスピアに
凝った時期があります。
その当時、
レナード・ホワイティングと
オリビア・ハッシ―主演の
「ロミオとジュリエット」が上映され、
それを観ました。
ワクワクした。
中世のイタリアの古都、
ヴェローナを舞台に
シェイクスピアのめくるめく言葉の渦が、
異次元の世界を見せて、
言葉の持つ魔力に引き込まれました。
その後、シェイクスピアを
貪るように読んだものです。
彼が活動した時期は、
16世紀末から17世紀。
先代のエリザベス女王の時代で、
日本では安土桃山から江戸時代初頭。
彼の生家は今も現存し、
築後400年を経た超レアもので、
木組みの家。
建っていることが不思議なほど
一歩足を踏み入れれば、
壁がきしみ床がうねり、
歩くほどギシギシ音がする。
天井は低く、部屋は薄暗い。
彼が生まれた部屋もありましたが、
世界的な文豪も、
子供の頃はこうした家に住んで、
創造性を蓄え、
俳優を目指して、
やがて劇作家として、
名声を得たわけですが、
名作が生まれる環境とはなんぞや、
と思ったものです。
裏の敷地では、
将来の舞台俳優を目指す人たちが、
シェイクスピア劇を演じていました。
シェイクスピア。
生誕400年余――。
それでもなお
観る人の心にひびき、
人々に新たな価値を生み出している。
シェイクスピアは偉大なり。
2018.10.19