夢の続き――。
高速道路を走ってA高校に向かう。
結論は本人次第。
とは言っても当の本人が迷っている。
それはそうだろう。
同じ立場なら誰だって迷うかもしれない。
インターハイで優勝する夢、
大学進学に託す夢。
それを天秤にかけるものの
インターハイ優勝は、
大きな夢になるに違いない。
しかし中高一貫校で仲間や友人に恵まれ、
校風に魅力を感じている。
とすれば、別れがたく絶ちがたく、
迷いを振り切ることもできない。
しかし、目の前で見るA高校の練習は
インパクトがあった。
これまで見てきた練習とは、
レベルが違う、格が違う。
高さ、パワー、技術力。
そのいずれをとっても最高のレベルで、
春高で優勝が狙えるというだけあって、
段違いの強さを見せていた。
当面、夢は夢、
夢のままで終わるかも知れないし、
あるいは夢を追って
夢の続きを見るのかもしれない。
その日、監督は新たな提案を持ち出した。
特待生として学費免除、寮費免除。
それは良くある話しだが、
公立校はそれ以上の特典は難しい。
けれどA高校には伝統があり、
後援会組織もしっかりしているという。
――他の選手には内緒なんですが、
と切り出し、
――生活費を援助します。
実は後援会でも、
それだけ有望で成績も優秀なら、
生活費を出しますよと言っています。
しかし最後の判断は本人に委ねた。
その後、親として色々な人に相談した。
その結果は、
――スポーツ選手は怪我をしたら終り、
という声もあったが、大半は、
――是非行くべき、またとない機会……、
というものだった。
少年の夢、人生の岐路――。
この選択はいずれを選んでも
後悔はないように思えた。
志望大学に進学するのも夢なら、
バレーで高校日本一を目指すのも夢。
いずれが大きな夢になるのか、
との選択肢でもない。
賭ける夢の比重が、
彼にとってどちらに傾いているのか。
それだけだと思う。
けれど彼の最後の選択は、
――今の学校に残る、
というものでこれもまた意外だった。
彼の気持ちは、
Aに行くことで固まっていたように見えた。
しかし夢が途絶えたわけではない。
高校で仲間とともに夢を追い続ける、
それも大きな夢――。
しかし断りの電話は、
胸が痛むような思いがした。
それまで一日に何度も電話をかけてきて、
あれだけ心待ちにしている監督に
手紙だけでは、と……。
監督が返事を待って、
気が気でない様子はよくわかる。
それだけに、
なるべく早く返事をしなければと思っていたが、
それが断りの電話だと気が重い。
監督の自宅に電話して
弾んで応対していた声も、
それが断る返事とわかると気落ちして、
どんどん声が沈んでいくのがわかった。
あの監督が誠心誠意、
選手に接していたのはよくわかった。
Aは公立高校。
無論、寮はない。
そこで監督自ら中古の一軒家を借りて
選手が10人ほど寝泊りしている。
選手は総勢20人。
いわば年中無休の共同合宿所のようなもので、
手狭ではあるが、
あれはあれで結構楽しいのだと思う。
朝食は監督の奥さんが毎日作りに来る。
夕食は近くの食堂と契約して、
自由に食事ができるようにしている。
公立の高校としては、
選手を養成する場の提供方法として、
これが精一杯かもしれない。
A監督は温和で面倒見がいい。
――みんな、いい子たちですよ。
と言う顔もどこか好々爺として、
先生と生徒、監督と選手という枠を越えて、
選手ひとりひとりと我が子のように接し、
面倒を見ている。
それでも選手を見る眼と、
育てることには絶対の自信を持っていた。
しかし大学進学については、
**はスポーツ推薦の枠に組み込まれる。
**も体育学科系に入ることになる。
結局は教師の道という選択肢に
限られるかもしれない。
それが最後まで迷いの原因にもなりました。
2018.10.3