長男は小学校では、
サッカーのスポーツ少年団に属して
サッカー少年だったが、
中学入学と同時に、
バレーをしたい!と言う。
入学した中学にサッカー部はない。
背が高いからいいんじゃないか、
と軽く考えて背中を押したが、
それから様々なドラマがありました。
大きな変化は、
中学3年で全国大会の
県代表選手になったこと。
それまでの部活とは違い、
県内の有力選手が集まって、
週末には集中的に練習し、
県内のトップ高校との練習試合もある。
背が高いだけで
レギュラーとして使ってもらえるのかな、
と疑心暗鬼だったが、
選手はそれぞれ
プレッシャーを感じながらも、
楽しく練習をしているようだった。
しかしその年の年末に行われた
県対抗の全国大会ではグループ戦で敗退。
それでも大会後、
12人の優秀選手賞の一人として選抜された。
8月にチームを結成して以来、
約5ヶ月の間に
スポーツ界の裏事情を垣間見た気がした。
一流選手を目指すには、
それ相応の道がある。
強豪校と呼ばれる学校で
レベルの高い選手にもまれながら、
良き指導者の指導をあおぐ、
それも必要なこと。
このとき参加した県代表選手の半数は、
チーム結成時にはすでに
インターハイの強化指定校への
推薦を決めていた。
その翌年は地元県の主催で
インターハイが行われる。
地元の開催とあって
県内の強化指定校として4校が選ばれ、
選手は次々に指定校への推薦を決めていた。
特待生として合格が保証され、
休日には合宿が組まれて、
試合を目前にすると
平日も練習する日が続く。
練習は大学リーグのトップ校や
県外の高校でも行われた。
長男も県内の高校に遠征に行くたびに、
入学の勧誘があった。
バレーセンスがいいと言われ、
もったいないと言われた。
それでも長男は中高一貫の私立校に在籍し、
試合後は勉学に励むことになる。
大阪での大会が終わり、
バレー漬けの日々に終止符を打つ。
そして長男にとっても
最初にして最後の大舞台となるはずだった。
しかし、意外なことが起こった。
年末の試合を終えて、
お屠蘇気分も抜けない1月7日、
A高校の監督から自宅に電話があった。
――A高校のBと言いますが、
一度会って戴けませんか……
選手を勧誘する電話だった。
A高校は春高バレーやインターハイで
優勝実績のある全国屈指の強豪校。
しかし長男は併設の高校に
進学することを決めていたので
固辞するつもりだった。
とはいえ、
――会うだけでいいですから、
との再三の誘いに
――会うだけ……、
と応じることになった。
3日ほど後の夜、
B監督が自宅に訪れた。
第一印象は好印象。
誠実で人柄の良さを感じた。
――**君に是非うちに来て戴きたいのですが……。
おもむろに話す前に答えは決まっていた。
――実は**君のことは、
K高校のC監督から聞いたんです、
と切り出した。
年末の大会にも足を運んで試合を見たが、
選手個々人の印象は薄かったという。
――ではなぜ?・・、と訊くと、
――C監督から、
うちで是非欲しい選手だったんだけど採れなくて。
Aだったら来てくれるかも知れない。
と話したそうだ。
練習でもC監督は、
――とにかくバレーセンスがいい、
と折りにふれて誉めていたが、
A監督はそれに
――**君は骨格と顔つきがいい。
プレーを見なくても素質はわかる、
と言う。そして、
――大学はどこに行きたいの。
と訊くので長男は、
――**……、
と低い声で答えた。
意外だった。
大学の志望校は国立の理系、
エンジニア志望でTK大だと思っていた。
それを聞いて監督は、
――**か・・、**は駄目なんだよね。
あそこは採らない……
と呟いて、
――**か**だったら何とかなるんだけど・・、
と話す。それを聞いて、
――えっ、そんなことできるんですか?
と応えた。
中学で大学の進学先も決まる、
そんなことってあるんだろうか。
バレーのトップ校なら
そんな伝手があるのかも知れない、
と思いながら半信半疑だった。
A高校は高校バレー界のトップ。
高校日本一も夢じゃない・・。
監督もまた、今年は優勝が狙えるチーム、
と話していた。
答えを保留して、
とりあえずAの練習を見に行くことにした。
2018.10.1