赤ずきんちゃん気をつけて

赤頭巾ちゃん気をつけてーー、
という本を読んだことがある。
庄司薫が書いた小説で、
芥川賞を受賞し、
一世を風靡した。
主人公はその当時の超進学校、
日比谷高校の生徒。
東大を目指していたが、
大学紛争の煽りで、
翌年の東大入試が中止になり、
愛犬は死に、
幼馴染の彼女とも別れて、
踏んだり蹴ったりの一日がスタートする、
という書き出しで始まっている。
いかにも青春のほろ苦さと、
感性がキラキラ輝いて、
情景描写は軽妙洒脱、
当世風の鋭い感性が光って、
新鮮な感動を呼んだものでした。

その当時、周りには、
才能に恵まれた友人が大勢いました。
その中に田園調布に住む友人がいて
彼の家を訪ねたことがある。
彼は有名進学校の生徒。
当時も今も、
東大合格率を誇る超名門校のひとつ。
彼との共通の友人と一緒に家を訪ねると、
雨戸は閉まり、
人のいる気配がない。

しかし家を案内した友人は、
――きっといるよ!
と言いながら
雨戸に小石を投げた。
すると雨戸が開いて、
――よぉ!と声をあげながら
2階から降りてきた。
――なんで昼間から雨戸閉めてるんだよ、
と言うと、
――この方が勉強に集中できるからだ、
という。
彼に招かれて高校の文化祭に行ったことがある。
――面白いものを見せてやるよ、
と言いながら、
生徒が演じる演劇の舞台を見た。
前衛的な音楽が流れて、
舞台も、台詞も、風変わり。
その一種独特な異空間に不思議な感動を覚えた。
――全部、彼らのオリジナルだよ、
と話していた。
彼らの余りある才能を感じて
出来る生徒は違うなぁ、
と感じ入ってしまった。
その後、その高校では学園紛争があり、
彼はそれに関わっていた。
大学進学で悩み、
――退学して大検を受けようと思ってるんだ、
と話していた。
大検は高校を中退した生徒が、
大学入試の資格を得るために受ける認定試験。
しかし彼は大検を受けることなく、
高校を卒業して、
そして当然のことながら東大に合格した。

大学時代の一時期、
とあるグループに属していた。
グループには個性的な仲間が揃っていた。
その中に同じ超有名校の生徒がふたりいた。
ひとりはボクシング大好きで、
暇があるといつも
シャドウボクシングをしていた。
もうひとりは、
父親が都市銀行のシアトル支店に勤務し、
彼は母親と同居していた。
いかにも出来そうな顔をして、
実際、かなり成績は良かったらしい。
そんな彼らを含めて、
男5人で田園調布のハズレにある
友人宅(前記とは別の家)に出向いた。
夏休みの蒸し暑い夜だった。
その当時、エアコンのある家は珍しかったが、
の家にはエアコンがあって、
それをガンガンつけて、
仲間のひとりが肌着を脱ぎ、
上半身裸のまま家の中をうろうろしていた。
翌日、それを見咎めた友人の母親は、
――誰れよ、アレ!?
とかなりお冠。
人の家でなにしているの、
と言いたげだった。
それはともあれその前夜のこと、
友人宅の彼の部屋にはピアノがあった。
小さいころ習っていたという。
それを見て某高校のひとりが、
ピアノの鍵盤を開いて弾きはじめた。
そしてビートルズを弾く!
力強いタッチで見事に弾きこなし、
それも楽譜なし。
それに気圧されて、
みんな呆れるように聴き惚れていた。
――凄いね!楽譜なしで弾けるんだ、
というと、
――なんでも弾けるよ、
と言う。
その溢れる才能に驚いた。
別にピアニストを目指している訳ではなかったが
才能に秀でた人間はなんでもできる。
天は人に二物を与えずというが、
それは絶対に違う。
才能のある人間には、
天は二物も三物も与える。
その証拠に、
レオナルド・ダ・ヴィンチは、
画家として有名ですが、
建築、音楽、工学、細胞学、数学など
全てに優れている。
シンガーソングライターも
詞を作り、曲を作り、楽器を弾いて歌う。
優れた才能を持つ人間は、
自らの能力を活かすべく術を心得ている。
勿論、それは生まれついたものだけでなく、
才能ある人は、
才能を磨くことに余念がない、
ということだろう。

周りにはそうした才能に恵まれた人が、
たくさんいました。
ちなみに、
ピアノを弾いた彼も東大に合格しました。

2018.9.21