◆オランダ
風と花と自転車――
オランダを印象付けるものに、
そんなものがある。
オランダは九州ほどの広さのとても小さな国。
けれど、この国は海抜0m以下の地帯が
国土の4分の1を占め、
万が一にも海が国土に流れこむようなことがあれば、
その分だけ水没する。
だからこそ水に対する備えは万全で、
水と共存する国でもある。
水に対するリスクを減らして、
縦横に運河が張り巡らされ、
水を活かした海運国でもありました。
バスでオランダを廻ると、
この国が平べったい国であることがよくわかる。
どこまでも限りなく平地が広がり、
四方を見渡すと地平線が見える。
だから風が強い。
海から、そして大陸から、
流れ込んでくる風を遮るものがない。
平地には至る所に風力発電が設置され、
オランダは自然エネルギーを大切にする国。
しかし、これほどの風力発電がありながら、
風力エネルギーは5%に満たない。
風と自転車――。
これも無縁ではない。
平らな国だから風が強いが、
坂が少なくて自転車が走るには都合がよい。
テレビで中国やベトナムで
自転車が大挙して押し寄せる光景を目にしたが、
それとは違う。
車がないから自転車ではなく、
エコでそれがスマートだから。
通りには必ずと言ってもよいほど、
自転車専用道路があり、
自転車が最優先。
人も、車も、
自転車の走行を遮ってはならない。
軽快に、そして颯爽と、
大地を走り抜ける。
とにかく風が強い日が多い。
キンデルダイクという所がある。
広い大地に風車が19基も並んでいる名所で、
世界遺産にもなっている。
風車は、風力エネルギーで水を吸い上げ、
高い所にある水路に水を流す構造で、
灌漑の役目を果たしてきたが、
今はその役目を終えて、
もっぱらオランダを象徴する風景になっている。
キンデルダイクは強風が吹き荒れて
歩くのも大変だったが、
バスに戻るとガイドさんは、
――風、強かったでしょう!、と言いながら、
――でも、当たり前なんですよね。
風が強いから風車なんです、と言われて、
なるほど!と妙に納得した。
バスの窓から見ると、
川を挟んだ両側は水面よりも低く、
その辺りには住宅が並んでいる。
ありえない!・・
しかし、ありえない現実がオランダ。
テレビでオランダを紹介した番組を見たことがある。
オランダは水と緑の国だが、
水平線より低い土地に住む人も多い。
オランダの小学生は風変わりな必須科目がある。
それは水泳。
しかも、服を着たまま
どぶんと放り込まれて泳ぐ訓練で、
水に対する備えはそんなところにもあった。

花のある風景も、
オランダの地形と無縁ではない。
オランダは山がない。
かつて水面下にあった土地を干拓して、
限りなく広い大地に花を植えた。
それがチュ-リップ。
花の季節には、
それはそれは見事な花のパッチワークが広がる。
4月末から5月は花の季節。
我々が出向いたのは2013年、
5年前の4月末。
この時期にオランダに行ったのは、
花の最高の見頃だから。
事実、オランダは花の季節に観光客が殺到し、
我々のツアーも、
前年の12月には予約でいっぱいになった。
本来なら木々の緑が潤う、
6月から7月あたりがベストシーズンだろう。
しかし花を求めて旅する人は、
辺り一面のチューリップに
恋い焦がれるものらしい。
どうせ行くなら花の季節に。
我が家にはNIKONのカレンダーがあって、
4月を飾る風景は、
空撮されたオランダのチューリップ畑だった。
赤、黄色、橙、紫、白・・。
本当に見事なパッチワークで、
その風景に魅せられたともいえる。
けれど、そのとき出向いた前の週は、
マフラーを巻き、コートを羽織っても、
ぶるぶると震えるような寒い日が続いて、
花の風景は期待できないのでは、と思った。
しかし奇跡が起きた。
アムステルダム空港に着いた翌日は、
ベルギーを巡り、
そしてオランダに戻る。
普段の心がけの良さというのか、
ツアーに入った日から暖かい日が続いて
一気に花が開いた。
最盛期とはいかなかったが、
見事な花の風景を見ることができました。
花の園・キューケンホフ公園――
オランダと言えば多くの人は花、
とりわけチューリップを思い浮かべるだろう。
それほどオランダの花は、
多くの人に愛され、
オランダを発信基地として、
世界中にその美しさを伝えてきた。
その中でもキューケンホフ公園と
花のパレードは有名。
世界中からこの花を見るために
大勢の人が訪れる。

キューケンホフ公園に訪れたのは、
4月20日――。
この日、出発時間になっても、
現地ガイドさんは来ない。
現地のツアーデスクとの間に行き違いがあったらしい。
30分以上遅れて出発した。
その影響で市内観光の最後に予定していた、
キューケンホフ公園の入場も大幅に遅れ、
2時間の見学予定が、
閉園までの1時間半に短縮された。
アムステルダム郊外へ30分。
果てしなく広がる畑の中をバスはひた走る。
キューケンホフまでの途上には、
帰路を急ぐ車やホテルへ帰るバスの列。
入場したときには、
広い駐車場にバスは数台ほどで、
園内にも人はまばら。
陽の光が斜めに射して、
日没が遅いヨーロッパでも
夕暮れが迫っていることを感じた。
しかしこれが幸いした。
普段なら花の季節の公園は、
人をかきわけながら見ることになるが、
このときは人影も少なく、
天気にも恵まれた。
キューケンホフ公園は、
1年中開園しているわけではなく、
3月半ばから5月半ばまでの季節限定の花の園。
それでも既に4500万人の観光客が、
この公園に花を求めて来たという。
花のベストシーズンは、
例年なら我々が訪れた4月20日前後。
しかしその年のヨーロッパは厳寒の日が続いて、
開花時期も遅れた。
だから花の最盛期とはいえなかったが、
それでも花の宴を堪能した。
公園に向かう途中で、
一面のチューリップ畑を見ることができたし、
キューケンホフ公園はきれいだった。
木立の間から木洩れ日が射しこんで、
斜めにさしこむ陽の光は緑なす芝生に反射して、
色鮮やかな花と、
太陽の光が織りなすページェントを演出していた。

2018.9.10