渋谷発

渋谷から原宿に抜ける道――。
それを公園通りと言います。
かつてはあの通りが好きでした。
もっともあの頃は、
人が溢れんばかりの賑わいのある通りではなく、
ひっそりして、お洒落で、小粋な通り――、
そんな印象がありました。
甘味処の「雀のお宿」や、
関西風味のうどん店、
そして西武パルコも、
今ほどいくつも並んでいませんが、
若者には圧倒的な人気があって、
ほかには見られない
街並みとしてのステイタスがありました。
そんな公園通りも、今はしかし・・。

渋谷公園通り

以前、渋谷交差点の角の2階にある
スタバのカウンター席から
交差点を見下ろしていました。
渋谷の交差点は今では、
東京の有名な観光ポイントといえるでしょう。
人波が四方から雪崩れ込んで、
ぶつからないで交差点を渡る姿が、
なんとも不思議で、クールだと。
「クールジャパン」という番組で
日本在住の外人さんが話していました。
ともあれ休日の渋谷は余りにも人が多くて、
信号が変わるたびに
人波が交差点にどっとなだれ込む。

以前はこんなじゃなかったな・・。
渋谷はもっとゆとりのある、
癒しの空間だったように思います。

渋谷交差点

それでも街は進化する。
スペイン坂――。
西武百貨店の裏手にある小さな階段。
僕らが学生時代は、
この辺りはひっそりとして、
ありふれた裏通りでした。
しかしこの坂の命名とともに、
小洒落た店が並んで、
一躍、渋谷の有名スポットに躍り出ました。
ありふれた裏通りが、
今はスターダムに。
この坂の名前の由来は、
スペイン好きのカフェのマスターが
名付けたらしい。
ローマのスペイン階段じゃあるまいし、
なんとも大それた!と思いますが、
いずれにせよそうした名前に誘われて、
足を運ぶ人がいるわけです。
坂を昇りきった階段の途中に
クレープ専門店があって、
生クリームたっぷりのクレープを
食べたことがありますが、
アレ、旨かったな!
あの付近には当時、
壁の穴というパスタ専門店がありました。
その名のとおり岩をくりぬいたような手狭な店で、
10人も入れば一杯になる店でしたが、
やがて「壁の穴」のブランドとともに、
ここを拠点に全国チェーンを展開しました。
付近には東急ハンズが出来て、
裏手にはライバル意識むき出しの、
西武手がけるLoftが誕生しました。
渋谷のファッションプランナーとしての面目躍如。
次々に新しいスタイルの店がオープンして、
渋谷の、若者の街としての、
ステイタスを築いてきました。
若者が創り若者が集う街、渋谷。
渋谷のスタンスは、
今も昔も変わらないように思います。

スペイン坂

そんな渋谷ですが、
当時を振り返れば色々な思い出が蘇ります。
大好きな街の、大好きな店、
公園通り――――。
とりわけパルコの地下にある
詩仙堂という珈琲専門店がお気に入りでした。
落ち着いて風雅なインテリアの
バロック音楽の流れる店。
その店ではよくイ・ムジチ演奏による、
ヴィヴァルディの「四季」が流れていました。
お好みの珈琲はマンデリン。
喧騒の街で
ふっと安らぎのときを迎える至福の瞬間、
珈琲ブレイク――。

さらに街は進化する。
癒しを捨てた代わりに、
先進の流行が交わり、

渋谷は若者の創造空間としての
役割を果たしてきました。
渋谷は今も昔も先進の街、
若者の集う空間。
原宿のように地方の中高生、
変なガイジンさんがたむろすることもなく、
ファッションリーダーとしての地歩を固めています。

2018.8.20