本格的な夏の到来。
それにしても今年の夏は暑い。
夏のはじめに
西日本一帯に豪雨を降らせて
多くの犠牲者を出したかと思えば、
さらに猛暑の夏が襲い、
気象庁はじまって以来の
高温記録を更新した。
地球温暖化のせいだろう。
思い出すのは、
6年ほど前の夏。
東京の病院に入院していたが、
病院内は完全冷房。
寝苦しい夜はありませんでしたが、
病棟から一歩出ると、
むっとする熱気に包まれた。
その年はやはり
日本の観測史上、
最も暑い夏といわれ、
その暑さは半端じゃなかった。
東京の夏は暑いーー
噎せ返るような
澱んで不快な熱気。
ヒートアイランド現象のせいだろう。
繁華街の暑さは異常で、
建物内はひんやりしても、
ビルの中からエアコンの熱気が吐き出されて
湿気の篭った暑さが地面を這う。
その上、車の排気ガスや路面の照り返し、
人いきれなどが混じって
耐えられないほどの暑さになる。
そのせいか外を歩く人も
心なしか少ないように見える。
真夏の東京を用もないのに歩くのは、
絶対にゴメンだ!と思うが。
そうした暑さの反動もあるのだろう。
熱気で舞い上がった蒸気が、
午後になると
激しい雷雨となって地上を襲う。
バケツをひっくり返したような雨とは、
こんな雨のことを言う。
学生時代、
そんな雨に遭遇したことがある。
家路を急ぐ帰り道、
駅を降りて地上に出ると、
大粒の雨が、ポツリ、ポツリ・・。
雨が降ってきたな、
と思いつつ歩いていると
突然、激しい雷とともに、
バケツをひっくり返したような
激しい雨が降ってきた。
雨宿りどころではなく、
上から下までびっしょ濡れ。
どうせ濡れたんだからと
走って家路を急いだが、
服のままプールに飛び込んだ気分だった。
そうした激しい雨が、
涼感を誘うのは皮肉ですが、
真夏の雷雨の後の
夕暮れどきが好きでした。
激しい雨が埃を振り払い、
その後はさわやかな空気に包まれる。
そんな日に東の空を見れば、
七色の虹が掛けられて、
夏色の風景が、
心地よく見えたものでした。
夏の風景に似合うもの。
朝顔に、花火に、
風鈴に、麦わら帽子に、
庭に撒く打ち水ーー。
昔の人の知恵は、
目で、耳で、鼻で、
五感をフル稼働させて
夏の涼感を誘ったものでした。
夏になれば、
家の障子や襖をとりはらい、
風通しを良くして家の熱気を追い払う。
そんな家の軒先には、
夏ともなれば、
竹垣に朝顔の花が顔を覗かせていました。
涼やかなその姿は、
夏ならではのものですね。
涼味を誘う音に
風鈴がある。
ちりん、ちりんという
涼しげな音色は、
夏の風景に溶け込んでゆく。
岩手県の盛岡は南部鉄の名産地。
土産物屋には、
そうした南部鉄の風鈴が、
店の軒先に吊るされて、
涼しげな音色が夏の協奏曲を奏でている。
その色を聴き比べて、
とっておきの夏の音色を買ったものでした。
それも夏の風物詩ーー
夏は庭に打ち水をするのが日課でした。
水道の蛇口にホースをつないで
勢いよく水を撒くと、
一瞬ではあるけれど、
涼しげな風が舞い込んでくるように
感じたものでした。
昔の人の涼感を誘う生活の知恵。
そうした姿が影を潜めて、
思い返しても
かつての夏の風景は、
遥か遠くに霞んで見えます。
2018.7.30