食を愉しむには雰囲気も大事。
レストランやラウンジの雰囲気は、
食の味を引き立てる。
ときにはカフェや
レストランの窓から見える風景が、
食を一層愉しませてくれる。
この景色、なんかいいね!――
窓の向こうに
眼を愉しませてくれる風景があれば、
料理も珈琲も美味しく感じることができる。
それで思い出す風景がいくつかある。
物語の見える風景――
松任谷由美の
歌のモチーフになった喫茶店がある。
横浜の山の手にある「ドルフィン」という店。
5年ほど前、
長男の車で偶々通ったとき、
あぁこの店がと思いながら
歌の風景がある店を通り過ぎました。
――あなたを思い出す♪
この店に来るたび
ソーダ水の中を貨物船が見える
小さな泡も恋のように消えて行った
紙ナプキンは
インクが滲むから
忘れないで、とやっと書いた、
遠いあの日
けれどこの店のソーダ水からは、
三浦岬も貨物船も見えません。
全ては空想の中の世界らしい。
それでも歌には何かを駆り立てるものがあります。
ノスタルジックな店――
新宿三越の裏手に名曲喫茶がありました。
クラッシック音楽を聴かせる店で、
いかにも昭和初期、
という匂いを感じさせました。
店内はお世辞にも綺麗とは言えない。
けれど時代を感じさせる
ひなびた雰囲気が懐かしい。
天井には古びたシーリングファンが廻り、
古いソファに、古いテーブル。
店内の食器はどれも骨董品もので、
それでもこの店が好きでした。
単にアンチックというだけでなく、
古いものから漂う時代の匂い、
背景を流れる悠然とした時の流れというのか、
そうした雰囲気にどっぷり浸って、
ひたすら音楽を聴いて珈琲を飲む。
立ちのぼる珈琲の陽炎に、
安らぎの時間を感じていました。
学生時代以後、
この店を訪れたことはありませんが、
これを書きながらふと懐かしさがこみあげ、
NETで検索しました。
今はあるはずもない、
古代遺跡ともいうべき店。
あったら奇跡だ。
ところがありました。
店は今も三越の裏手にあって、
店の名前は「らんぶる」という。
かつては地上2階、
地下2階の大きな喫茶店でしたが、
老朽化が進んで改築・改装を繰り返し、
今は1階と地下を残すだけ。
とはいえ地下には、
200席という広大な空間を有している。
僕はいつも2階にいた。
そこはレトロな雰囲気が漂って、
大好きな空間でした。
もっともNETにあるこの店は、
こんなじゃなかったなという印象で、
思い出を残す面影が懐かしい。
白いグランドピアノのある店
学生時代、
新しい店を探すのが好きで、
ふらっと店に立ち寄ることがあります。
当時は赤坂に住んでいて、
一ツ木通りを通学していました。
TBSの前にパン屋があり、
その横っちょの階段を降りて行くと
喫茶店らしきものがある。
興味をそそられて入りました。
お洒落な喫茶店――
店の奥には白いグランドピアノが置かれ、
女の人がピアノを弾いていました。
いかにも映画のワンシーンにありそうな、
優雅で落ち着いた雰囲気。
大人の世界というか、
今までにはない別世界を感じていました。
とはいえ、
店の名前は忘れてしまいましたが。
2018.7.25