二日目、
この日は九份へ。
バスで40分ほどの超人気スポット。
宮崎駿の「千と千尋の神隠し」の
モデルになった所でもある。
中国風のレトロな雰囲気に人気がある。
かつてこの地はゴールドラッシュにわいて、
金を求めて大勢の人が押し寄せた。
しかし、金鉱も堀り尽くせばただの山。
人通りも絶えて、
人影も淋しい廃墟になりはて、
人々から忘れ去られる運命を辿ることになった。
あとには九軒の家が残るばかり。
彼らは生きるために、
生活物資を求めて台北に買出しに行く。
けれど一軒ごとに行くのでは大変だと、
九軒の家が分け合って順番に買出しに行く。
だから九份(きゅうふん)。
ところが25年ほど前、
この地を舞台にした台湾映画が上映されて、
空前の大ヒットを飛ばし、
その後15年前には、
宮崎駿が「千と千尋の神隠し」のモデルにして、
今では台湾最大の観光地になった。

九份はいい、凄くいい。
日本統治時代の面影を色濃く残して、
レトロな雰囲気の店が並んでいる。
映画館跡は日本の古い炭鉱町にある
映画館の風景を思い出させる。
いちばんの見所は茶房。
九份から美しい海を臨む茶房や
アンチックな家財が並んで
レトロな雰囲気を漂わせている。
そんな店の一角で
店の人の指導を受けながら烏龍茶を戴く。
ペットボトルでぐいぐい呑むんじゃなく、
正しい作法で戴く。
テーブルの横には炭火の火鉢があり、
土瓶で湯をわかす。
茶器にいちど湯を注いで茶器を温めて捨てる。
茶を淹れ最初の1杯は15秒ほど待ち、
二番茶は20秒、三番茶は25秒。
それぞれおいしいお茶を淹れるために、
お茶に礼儀を尽くして正しい作法で戴く。
けれどはっきりいえば面倒臭い。
せわしない日本人に
そんな悠長なことができるか、と思うが、
ときにはゆったりと心ゆたかに茶をたてる。
そんな時間が必要かもしれないと思い、
茶器のワンセットを買いました。
でも、今も一度も使われることなく、
食器棚でいつともしれない出番を待っています。

この日のガイドさんは、
君ちゃんと呼んでください、の若い人。
軽やかにステップを踏むように歩いて、
せわしない。
話し始めれば速射砲のようにまくしたて、
へんな日本語も飛び出すが、
そんなことは一向に気にしない。
だから聞いている方も
だんだん馴れて気にならない。
――私、歩くの、早いですよ。
だから遅れないでください。
時間に遅れればそこで解散です。
バイバイです。
時間を守るのがモットーらしく、
時間までに集合場所に来るようにと、
噛んで含めるように何度も繰り返した。
手際がいい、
抜けがない。
話も面白い。
――台湾は安全です。
でも、決して荷物を放さないでくださいね。
前に持っていれば自分のものですが、
横に持てば他人のもの、
後ろに持てばみんなのものです。
忘れ物をしないでください。
忘れ物があれば私がいただきます。
このガイドさんは日本大好き。
1年半ほど日本にいて、
外人向けの格安チケットを利用して、
北海道から沖縄までくまなく旅したそうだ。
そして、
――台湾にも温泉がありますが、
宇奈月がいちばんです。
とってもいいです、
と連呼していた。
なんかとっても愉しいガイドさんでした。
その日の午後は、
台北の有名店「梅子」で台湾料理を食し、
故宮博物院へと向かう。
故宮博物院は台湾の国立博物館。
蒋介石の時代に紫禁城にあった
清朝時代の宝物を、
日本軍から守るために持ち出した。
いはば中国本土の歴史を語る膨大な遺物で、
当然のことながら
中国政府がその所有権を主張している。
その後は衛兵交代を見学。
決まった時間に行なわれ
30分以上にわたって行われる。
彼らは軍隊のエリート。
門に立つ衛兵は瞬きもせず、
微動だにしない。
衛兵交代の時間だけ、
厳しく、凛々しく、勇ましい姿を見せる。


夕食は、「鼎泰豊」の小籠包。
この店は、東京駅にも、
新宿にも、銀座にもあって、
日本のどこにでもあるが、
ガイドさんいわく、
台北本店の小籠包がいちばんおいしい、という。
彼女の言葉を借りれば、
――いちばんおいしいです、
うん、おいしい。
と自分で納得するように繰り返し、
――そうなんです、
とってもおいしいです、という。
世界の食通を唸らせた小籠包。
世界3大レストランとも言われ、
小籠包や小籠包のお友達が
円卓にたくさん並んで、
本当においしく戴きました、とさ。
2018.7.21