戦い終わって日が暮れて

FIFAワールドカップが開幕した。
そしてあす、
日本はコロンビアと対戦し、
ロシアを舞台に、
文字どおり世界が熱狂し、
血湧き肉躍る熱戦が
繰り広げられることになる。

思い出すのは16年前の、
日韓共催のワールドカップ。
あのときは日本の期待はいやが上にもあがり、
猫も杓子もワールドカップへとテンションがあがる。
目の前で見る
世界のスポーツ祭典は
開催日へのカウントダウンとともに、
巷での下馬評論戦も華やかだった。
あの当時、
日本はさほど強くなくても
中田、小野、高原、中村、川口、
といったスター選手がたくさんいて、
彼らを見ていると、
なにかやってくれそうだとの期待が膨らんだ。
今回はどうだろう。
少し冷静で、
少し冷めて、
日本を巻き込む過剰な期待感は失せ、
これぐらいはできるだろう、
とのうがった見方が先立つかもしれない。
それでも日本のレベルは上がった。
最近の世界戦の成績は
振るわないものの、
日本の、世界での立ち位置は確実に上がっている。
スポーツは熱さこそ命。
愛すべきチーム、応援するチームがいて、
目前にある高い壁の前でも、
実力以上の力を出すことを期待する。
たとえ負けたとしても、
よくぞやったという
チームへの声援応援の声がある。

日韓共催のワールドカップのとき、
友人に充ててこんなものを書いた。

***

FIFAワールドカップ。
共催国の日韓両国はもとより、
世界中が熱い熱気に包まれる。
何がこれほどまで人を熱狂させるのだろう。
サッカーに全く興味を示さない人でさえ、
この日この時ばかりは、
俄仕立ての熱狂的なサポーターに変わる。
中田、中山の名前は知っていても、
宮本や秋田は知らないし、
アントラーズの拠点がどこにあるのかも知らない。
しかし、頑張れ日本!の熱いコールは、
競技場だけでなく、
ほんの横丁の八百屋さんやカフェ、
そして家庭内総動員で、
熱く、熱くこだまする。
日本緒戦のベルギー戦は視聴率65%。
東京オリンピック女子バレーの66%には、
ほんの少し及ばなかったが、
それでも日本中が沸きに、沸いた。
鈴木の同点弾、
そして稲本の逆転ゴール、
結果は2対2の引き分けとなったが、
それでも観衆は一応に満足そうだった。
ともあれ筋書きのないドラマ、
そして世界レベルの技、
それを連日連夜、目の当たりに見せるサッカーは、
俄仕立てのファンも大いに唸らせた。
フランスのジダンなど、
本戦出場をまだ果たしていない名選手もいるが、
そのスピード、戦略、華麗なボールさばき、
観衆の眼を見張らせるトリックプレイなど、
世界レベルの質の高さと、
サッカーの奥の深さ、
その魅力を存分に見せている。
もとより世界の観衆をこれほどまで熱狂させるのは、
世界万民の共通認識ともなる
愛国心という名の運命共同体。
それこそが見る人を自国の応援に駆り立て、
熱狂させる源となっているのだろう。

***

戦いすんで日が暮れて……。
日本もとうとう敗れてしまいました。
アルゼンチンやポルトガルなど、
優勝候補が次々に姿を消していくなか、
日本頑張れ!の応援の声も空しく、
選手はピッチを去りました。
しかし今回のW杯は、
日本の予想以上の健闘で、
数々のドラマ、感動や夢、
そしてサッカーの面白さを伝えてくれました。
だからこそ、次なる凱旋舞台を、
踏むことなく去っていく選手を、
よくやったと讃えたい。

夢破れて山河あり――。
中国の著名な詩人・杜甫の詩の一節ですが、
勝利の感動は敗者があればこそ。
敗者の姿が鮮烈であればあるほど、
際立つものです。
それを痛切に感じたのは、
韓国vsイタリア戦でした。
トッティやビエリ率いる強豪を前に
韓国は互角の戦いで、
遂に逆転勝利をものにしました。
開催国の強みがあるにせよ、
絶対的戦力では到底イタリアに敵うはずがない。
それが真っ赤に染め抜かれたスタンドの前で、
とうとう勝利を勝ち取った。
狂喜する韓国選手、
それに呼応する大歓声。
ガックリと肩を落とすビエリ、
泣き崩れる選手もいる。
勝者がいて、敗者がいる。
だからこそスポーツではあるけれども、
強い者が必ず勝つとは限らない、
との戒めを改めて感じたものでした。
とりわけサッカーは運にも左右される。
日本ですら開催国の勢いで勝ち進んだのかもしれない。
それでも日本は確実に力をつけ、
世界の舞台を踏むにふさわしい戦力を備えてきた。
この日本の戦い振りを見て、
ベッカム選手は、
3年後、日本でプレーしてもいいとほのめかし、
日本中が歓迎ムードに包まれた。
CKで見せた正確無比のアシスト、
やはり世界一級品のプレーと大きな溜息をついたが、
あのプレーをJリーグで見られれば、
日本のサッカー熱はさらにヒートアップするだろう。
日本のサッカーは地殻変動を起こすかも知れない。

2018.6.18