ラブレターといえば、
浅田次郎の短編集
「鉄道員(ぽっぽ屋)」の中にある
「ラブレター」を思い出す。
浅田次郎は小説の名手。
どんなものでも書きこなし、
重厚な長編小説もあれば、
コメディタッチの愉しい長編もあり、
そして「勇気凛々ルリの色」のように
抱腹絶倒のエッセイ集もある。
その一方で短編にも優れた小品があり、
これもそのひとつ。
主人公は新宿歌舞伎町の
裏ビデオ屋の雇われ店主。
その彼が中国人女性と偽装結婚する。
いわゆる戸籍貸しで
50万円ほどの報酬を得た。
しかし彼女との面識はなく、
ある日、千葉の警察署から、
奥さんが亡くなったから引き取りに来い、
と連絡が入る。
すっかり忘れていたその人、白蘭。
やむなく彼は房総の裏寒い海辺の街に
遺体を引き取りに行く。
クライマックスは彼女の手紙。
中国の寒村から
身売りされてきた薄幸の女性。
そんな彼女がうらぶれた街で
一面識もない彼に
ひたむきな恋心を抱く。
その手紙は2通あり、
彼女の想いが切々と綴られていました。
周りの人はみんな優しい。
けれど、いちばん優しいのは吾郎さん。
私と結婚してくれたから・・
と始まる手紙は、
彼が思いもしない気持ちが溢れていました。
戸籍上の夫婦とは言っても、
見ず知らずの他人。
亡くなったことに
なんの感慨もない、はず・・。
弔いを終え、
引き取った遺品の中には、
更にもう一通の手紙があった。
それは亡くなる日の前日に書かれたもので、
死を覚悟しながら、
彼に対する深い想いが込められ、
彼はそれを読んで思わず激昂してしまう。
人から感謝されたことのない彼が、
見知らぬ女性にこんな言葉をかけられる。
悔恨と痛切な哀惜の情。
彼女の手紙には、
大好きな吾郎さんへ。
とはじまり・・、
私が死んだら
吾郎さん会いに来てくれますか。
もし会えたら、お願いひとつだけ。
私を吾郎さんのお墓に入れてくれますか。
吾郎さんのお嫁さんのまま
死んでもいいですか。
甘えてごめんなさい。
でも私のお願いこのひとつだけです。
との言葉が綴られていく。
拙い言葉の中国人の手紙。
決してうまい文ではないが、
激しく心ゆさぶるものがある。
それが深い感動をよび、
読む人に想いを届ける。
それがラブレターというものでしょう。
原作は感動的な短編小説ですが、
映画版もあります。
中井貴一主演の映画で
多くの人を泣かせました。
韓国のリメイク版もあり、
韓国ではこちらが大ヒット、
一世を風靡したという。
しかし、こちらはおススメできない。
日本版の方が遥かに出来が良い。
これを書きながら、
あの映画をもう一度見たいと思っています。
2018.5.18