大分前ですが、
亡くなった父や母の遺品を
整理していたとき、
父のラブレターが出てきたことがあります。
父の、ということは、
母に宛てた手紙で、
タンスの奥に
紐にくるまれた包みにありました。
母が隠し持っていたもので、
なんとなく秘密めいた匂いがして、
それを見たとき驚きました。
読んでみると普段の父の姿から
想像できない一面もあって、
新鮮というか、
父にもこんな時代があったのか、
と感じたものでした。
手紙は30通ほど。
終戦後の混乱期で、
昭和22年頃に書かれたものでした。
戦時中、父の会社は軍需工場。
父はそのため兵役を免れていました。
その当時、父は課長職で
会社の旗振り役として陣頭指揮に立ち、
いっぱしの論陣を張っていたようでした。
その一方で繊細な面があり、
母との共通の趣味として、
音楽のことや、
クラッシックの講演会をしたこと、
母のために犬を飼いたいなど、
色々なことを書いていました。
母の住まいは自宅から30kmほどの所で
父はその当時、
旧国鉄からチン電に乗り換えて
母に会いにいったことなどが書かれて、
そんな情景が眼に浮かんでくるようでした。
当時は仕事ものんびりしていたらしく、
仕事中にラブレターを書いて、
書き終えたらすぐ送るから、
と記していました。
今では信じられないことです。
父と母は見合い結婚。
その当時、父は引く手数多。
見合い写真が束になって送られ、
父はその束の中から
籤を引くように母の写真を引いた、
といったことが何かに書かかれていましたが、
それは嘘でしょう。
父は数ある写真から母を選び、
恋をしたのだと思う。
戦前、母の父親は事業を営み、
町長をする傍ら事業を営んでいましたが、
その事業は失敗。
その後は転落の人生を辿りましたが、
母は没落家系の娘とはいえ、
良家のお嬢さんとして育てられました。
多分、父は母に
粗忽な面のある自分にないものを感じて
恋をしたのだと思う。
それを読みながら、
母も手紙を書いていたはず、
それを読んでみたいと思いましたが、
とうとう見つけることはできませんでした。
聞くところによると、
父は結婚前、親しい友人に
袋にいれたものを渡して
預かってくれるように頼んだと言う。
その話を知る人は、
きっと女の人に貰った手紙だよ、
と冷やかし半分に話していましたが、
それがもしかして
母の手紙かも知れない。
今では確かめようもないですが、
そんな時代の、
淡い恋物語を見るようで、
父と母の若き時代を感じたものでした。
ラブレターは究極の手紙――
自分の切なる想いを伝えたい、
と願いながらしたためる。
それは人によって、
一世一代の事業ですが、
今やメールやラインの時代。
率直な印象として、
想いを伝える行為が
随分と軽くなったなと感じます。
書けば行間に想いが滲み、
それを相手がどう読んで、
どう感じるだろうと考えながら、
だからこそ何度も何度も書き直す。
それが本来の手紙のように思いますが、
それも今は時代遅れと言われるのでしょうか。
2018.5.16