日本と韓国の教育事情

父が、いずれは誰でも大学に入ることができるようになる。そのときは大学を選ばなければ、と話していたことがあります。随分前のことですが、思い返せばそのときすでに大学全入時代を予想していたわけです。
誰でも大学に入ることができる。いいじゃないか、何が問題かとも思いますが、大学は出たけれど、と職にあぶれる人が出るということを意味している。昨年こそ大卒就職率は97.6%と過去最高を記録しましたが、氷河期と言われた年は就職率も悪化。定職に就けない大卒フリーターがあふれたことがありました。今は景気がやや好転していますが、いつなんどき氷河期の再来となるやもしれません。
大学は出たけれど・・。肩書だけの大卒が通用する時代は終わりました。学歴も質を求められる時代になります。そのとき自分をどんな風に磨き、どんな風に売り込んでいくのか、いかにアピールするのか。ただなんとなく大学生活を過ごした人には耳に痛い時代で、就活で今より苦労する時代がきます。

韓国の教育事情はさらに深刻です。韓国は日本より熾烈な学歴社会。韓国の高校進学率はほぼ100%で、これは日本と変わりませんが、大学の進学率は日本の52%に対して64%と、大学進学率で世界トップレベルの高学歴社会です。そしてさらには一流大学への志向が極度に強く、それがその後の就職にも大きく影響しています。それは韓国の経済事情を色濃く反映しています。韓国は日本と同様に資源のない輸出国。そして、ごく一部の世界企業、サムソンやLGといった企業が韓国経済を支える技術志向の強い国です。今、世界では関税を撤廃して、輸出自由化を進める動きが盛んですが、韓国は諸手をあげて賛成。それは自由化が進めば輸出志向の国は有利だから。サムソンなどのIT企業は世界的覇権を進めており、優秀な技術者にはアメリカ企業のトップ経営者にも劣らない高収入が約束されて、20代で5000万円ともいわれています。世界を席巻する技術力を磨くには、それ位の優遇や一極集中が必要だというわけです。しかし他方で就職率は、進学率が進むほど厳しくなる。少し前のデータでは、大学新卒の10人に4人は就職できないという現実があります。雇用率を考えずに大学ばかり増やした結果といわれています。
韓国の教育の実態はどうか。それを知るエピソードには事欠きません。日本でも習い事をする子供は珍しくありませんが、韓国では、ピアノ、水泳、テコンドーなど、一人で3つ4つの習い事をするのは普通で、勉強にも熱心。自習室で夜9時まで勉強して、その合間を縫って塾にも通う。そうした事情を加速させる原因は学校側にもあるらしく、先生への付け届けは当たり前。当人たちは決して良いことだとは思っていませんが、自分だけ止めるわけにもいかず、やむにやまれずという事情があるようです。人口の半分がソウルに集中する韓国、そうした教育の過熱ぶりは都市部ほど強く、進学競争は小学校から始まり、進学するほど高くなる。進学率の高い学校に入れるためには引越しも辞さない。それがある種の社会現象となって、高学歴志向の強い人間が集中する新興住宅地も生まれたとありました。大学進学は、韓国の国民にとって重大事。一流大学志向はとどまることを知りません。テレビでもソウル大学の受験風景が流れていましたが、受験生の父兄が大学の前で膝をついて祈る姿が映し出されていました。
そうした韓国の教育熱は、今に始まったことではなく、すでに1970年代から始まりました。当時は高校入試のために中学生の90%が1日4時間以上の課外個人授業を受け、いわゆる「中3病」と呼ばれる精神疾患を患う生徒が1/4に達したというニュースも流れていました。今でも小学生の10人中9人が塾へ通い、7人が算数塾へ通って、算数教育を重視しています。国家が次世代を担う若者に期待するのは科学技術の発展。優秀な人材による技術発展が国を救うと考えられ、そんな国策的な教育熱の国から超エリートが誕生するのも不思議ではありません。それを担う企業も、海外に優秀な人材が流れないように高収入でエリートを囲い込むという図式ができあがっています。

日本はその反面、教育面では韓国から大きく立ち遅れました。ゆとり教育という愚かしい制度。円周率3.14を3にする愚かしさの極みは論外ですが、今、そのツケが回って、ゆとり教育の世代は、そんなことも知らないのと呆れる水準も見られました。韓国では日本のそうした時代にも教育熱は過熱し、日本よりさらに高度な技術立国を目指しています。例えば、ある高校の休憩時間を撮った写真があります。そこには疲れきって床で寝ている生徒や、机に屈伏して爆睡する生徒。それが当たり前だと言います。韓国の高校生は、朝7時半頃には登校して自習し、夜は必ず塾に通い、帰宅9時以降は平均的。生徒は疲れ果てて授業の合間は寝てしまうのです。それがいいか悪いかは別にして、部活で疲れて授業中に寝ている日本の風景とは違います。

日本もうかうかしてはいられない。技術の高度化は、やがては自動車業界におよび、先端産業の分野でも韓国が世界のトップに躍り出る時代が来ます。それは国家存亡の分岐点。韓国にすれば自国の経済を維持するには、それしか残された道はないのですから。しかし日本はTPP対応でも見られるように、農業支援団体を中心に全面自由化には反対の立場をとる。確かに、米や麦といった農産物は大きな打撃を受けるでしょう。日本産は値段では太刀打ちできません。しかし関税撤廃は世界の趨勢です。そうしなければ、日本の企業は韓国や中国に優位な地位を奪われ、やがては衰退の道を辿ることになります。そうした危機的状況の中で、日本は厳しい選択と決断を迫られています。
日本の動向と世界の趨勢。その間に韓国があって、韓国は自国の将来を見据えて、大卒と言う肩書だけで世界の覇権を握ることはできないと考えています。そのためには世界レベルの教育を目指してゆく。それが個々人の豊かさや、国家存亡を救う道に繋がると考えています。韓国は今、日本の先を歩みつつあります。

もっともこれらは、韓国のプラス面に焦点を当てて書いたもの。負の側面にある韓国はさらに厳しい現実があります。そうした負の側面は紙面も足りないので割愛しますが、SNSには、韓国に生まれなくてよかった!との書き込みもありました。

2018.5.2