小京都/津和野・倉敷

心に残る日本の風景。
日本には小京都と呼ばれる心和む風景がある。
そうした町に津和野や、萩、倉敷、金沢、飛騨高山、中仙道の妻籠、馬篭、奈良井宿などがあります。
その魅力は叙情豊かな美しさと、
失われつつある日本の風景でありながら、
日本人が求めてやまない心の故郷を
感じることができるからでしょう。

それを人がどんな風に感じるか。
それは人それぞれ、
個人の感性によって違いますが、
多くの人が共感する最大公約数的な
日本の原風景があるように思います。
僕自身はそうした風景が好きで、
学生時代からそんな町を求めて
歩いていました。

◆津和野
山陰の古都・津和野。
山あいの盆地にひっそりと佇む城下町。
今では小京都の代表のように呼ばれ、
全国から観光客が引きも切らず押し寄せる。
町を歩けば白漆喰と
なまこ壁の土塀や屋敷が並んで、
その白い塀に寄り添うように掘割があり、
その掘割には鯉が悠々と泳いでいる。

津和野

掘割のある風景。
中国地方で目にする風景ですが、
なぜこの辺りにこうした風景が多いのか
不思議に思っていました。
津和野の鯉は、
武士の非常食に供せられるためだったと言います。
その当時の武家社会では
飢饉や戦時に備えるのが世の常。
そのときの非常用の食として
鯉がいたというのです。
けれど今ではそんなことはどこ吹く風。
鯉は丸々と太り、
観光用として優美な姿を見せています。
津和野には三度ほど訪れました。
最初は冬ざれた寒い季節に。
関東よりも遥か南にあるとはいえ、
裏日本にあって、
冬になれば雪が降り、
しんしんと夜はふけて雪が降り積もる。
そして白壁に沿って菖蒲の花が咲く季節が二度目。
多分、その季節がいちばん美しいでしょう。
そして夏。
暑い夏の城下町の余韻が懐かしい。
蝉が鳴いて夏の陽射しが眩しい季節。
津和野には四季折々に美しい風景があります。

◆倉敷
倉敷はこれまで何度か訪れましたが、
8年程前の2月、
姫路城ツアーがあるというので参加しました。
往路は広島までの飛行機と、
復路は神戸からの飛行機を利用する、
いわゆる弾丸ツアーで
倉敷到着は夕方5時。
どっぷりと夜の闇が覆い、
倉敷は闇夜の散策になってしまいました。
その前は結婚直後でした。
古い町並みから少し外れた和風旅館に泊まる。
庭に面した部屋で、
苔むした庭に木が植栽され、
日本庭園らしい風情があって
それが心を癒してくれました。
その後は5月の連休に車で家族を連れて、
山陽・山陰を周りながら倉敷を訪ねました。
倉敷は、倉敷川を中心に
白壁と蔵のある美しい街。
蔵屋敷のある風景は江戸情緒が漂います。
美観地区と呼ばれる一帯があり、
そこが観光の人気スポットです。
その一角に倉敷アイビースクエアと呼ばれる
旧倉敷紡績の工場を転用したホテルがある。
赤茶けたレンガの壁に緑の蔦が這い、
明治の遺跡として女性客に人気でした。
L字型に曲がった町並みは
古い蔵屋敷を利用した資料館などが並んで、
そうした中に大原美術館や大原邸がありました。
大原邸の主は
大原倉敷で財を成した地方の財閥ですが、
大原邸の屋根瓦は実に見事です。
一枚一枚が微妙な色合いに焼かれて、
不思議な調和を保って、
観る人の目を引き付けます。
古い町並みはそこはかとない叙情を
醸し出しています。
中国地方にはこうした風景が多い。
倉吉も白壁の土蔵の街。
運河に面していくつもの土蔵が並び、
その重厚な佇まいは
かつての繁栄を偲ばせます。
倉敷も商都。
江戸時代に天領として栄え、
今では美観地区と呼ばれる旧市街に運河が縦断し、
その両側に白壁の
風格のある美しい土蔵や建物が並びます。
川のある風景ーー。
それが掘割であれ運河であれ、
水のある風景は人の心を癒してくれます。

倉敷↑ ↓

2018.4.23