芸能界に生きる(戸田恵梨香)

どんな世界であれ、
その道で一流を目指そうとすれば
一筋縄ではいかないもの。
下世話な話ですが、
僕自身はAKB48が好きではない。
秋葉原の小さなステージで生まれたAKBも、
今や押しも押されもしないトップスター。
それでもなんというか、
彼女たちにとりたてて才能があるわけでもなく、

単にちやほやされたい症候群の、
少女たちの憧れを逆利用した商売にすぎない、
と思ってしまうのです。
年端もいかない少女に
変に浮ついた憧れを抱かせるより、
もっと地に着いた教養を、
なんて口はばったいことを考えてしまう。
タレント、歌手、お笑い芸人、俳優など
芸能界も幅広い業界ですが、
実態は千差万別。
はすっ葉な笑いで日銭を稼ぐ人もいれば、
そうした世界できちんと芸を磨いて、
異彩を放つ人もいる。
とりわけ演劇の世界は、
それが求められているように見える。
ある男優がトーク番組で、
自分の居場所を探す、
という言い方をしていました。

演劇やドラマの世界は競争が熾烈で
メディアに登場する人は
その中のごく一部に過ぎない。
日々新しいスターが誕生して、
それは反面そこから押し出される人も
いるということを意味する。
升の決まった井の中では、
そこで己の存在価値を見出して、
それを周りにアピールしなければならない。
それには演技力を磨き、
魅力的なキャラを
前面に押し出すことが必要になる。
そこで輝き続けることは大変なこと。

菅野美穂は結婚後、
出産して母親役などを演じて
演技がひと皮むけたなと感じた。
かつてはラブストーリー的な
ドラマの出演が多い女優でしたが、
いつまでもそんな役が
転がり込んでくる訳でもない。
そんな中で子育てを経験し、
母親としての愛情や
母としての奥の深さを実感して、
それを演技に活かしているのではないか、
と感じた。
そしてそれが俳優としての、
新たな自分の居場所に
繋がっているように思える。

そうした点で、
金曜夜の「A-Studio」が面白い。
俳優の表の顔と、裏の顔。
演じる姿と、その素顔。
そうした違いが垣間見えて興味深い。

◆戸田恵梨香

番組に戸田恵梨香が出演したことがある。
その当時、戸田恵梨香は23歳。
司会の鶴瓶が、
――まだ23歳なの、と言う。
随分前からテレビに登場していたので、
そんな歳であることが不思議だったらしい。
彼女自身も、
――そうなんですよね、
と相槌を打ちながら、
――私はもっと歳をとって30位になりたい。
そうすれば色々な経験を積んで、
色々なことを学び、
人生が面白くなるように思う、
と語っていた。
しかし若い女性であれば、
歳を重ねることを嫌うもの。
いつまでも若い自分でいたいと思う。
それでもこんな風に語るのは、
人生経験が役者としての年輪を重ね、
演技に深みを感じさせることになるから、
との含みがあるように見える。

彼女が女優を目指したのは、
高校卒業と同時。
16歳で単身、東京に向かう。
彼女としては普通に高校生になって
大学に入りたいとの気持ちもあって
そうした葛藤との戦いの日々であったらしい。
しかしそれを後押ししたのは父親。
彼女の兄弟は3人。
6歳年上の兄と6歳年下の妹。
父親はそれぞれの子供を見極め、
彼らに相応しい道を歩ませようと決めていた。
兄は灘高から神戸大卒。
父は娘を見て、
役者があっている、
役者の道を歩ませようと決めた。

頑固一徹の父親で、
学歴は必ずしも必要ではない、
人生で必要なことは基本的な教養だと言い、
人間として身につけなければならないことは、
全部俺が教えてやると諭して、
彼女の迷いを振り切った。
そして言う。
その人間に才能があれば、
人はその才能に金を払う、と。
彼女自身は今では女優業を天職としながらも、
父親の教育にかなり反発したらしい。
彼女は高校を卒業していない。
父親に会えば教育のことで噛み付き、
いつも衝突していた。
――お父さんの教育は間違ってる。
それでお母さんだって、
お兄さんだって、
妹だって傷ついているかもしれないのよ、
と言うが父親は憮然として、
――これでいい、間違ってない、
と呟いた。
その道で光りを放つには、
なにかしらの威光を背にして輝く姿もあるが、
無理強いのように背中を押して
真直ぐに進ませる道があるのかも知れない。
彼女、戸田恵梨香は、
結構、筋金入りの女優でした。

戸田恵梨香2018.4.18