アンダルシアの熱い風ー3

スペインの風景――。
アンダルシアを覆う一面のひまわり畑は、南欧らしい明るい風景ですが、地中海に面した白亜の街・ミハスもまたスペインを彩る美しい風景です。建物も、小径も、壁も全て、辺り一面が真っ白。あたかも街全体が白装束をまとったように白く美しく輝いて、見下ろせば地中海の青い海が広がっている。これぞ地中海!、これぞスペイン――。6月の陽の光が眩しいスペインの風景でした。

白い街・ミハス――。
白壁の家が続くミハス。地中海に面したこの街は、太陽の海岸と呼ばれるコスタ・デ・ソルを見下ろし、夏ともなれば陽の光が降り注いで、街は灼熱色に染められます。白い石畳の坂を上り、坂道の両側の家並は、白一色に染め抜かれている。これも住む人の知恵。夏の暑さから身を守るためこの白い街が出来ました。おおらかなスペイン人、とりわけアンダルシアの人々は、おおらかそのもの。地中海の向こう岸はアフリカで、夏の暑さは半端ではないらしい。そのせいか夏にはシェスタと呼ばれる昼寝の時間がある。夏の暑さを避けて睡眠をとり、夕暮れ時から活動する。これもまた生活の知恵です。しかし、単にのんびりしているだけならいい。値札が当てにならないアラブ商法は、しばしば観光客をとまどわせます。咽喉が渇いて、とある小さな店でジュースを注文すると、その店のおじいさん、やおらコップをとり出し生ジュースを絞り器で絞る。のんびりの度を越して緩慢としか言いようがない。それでもじっと我慢の子で、差し出されたジュースにひと安心する。ところが手にした釣銭に驚く。足りない、間違うはずないのに。
――違う、違う!
と大きく手を横に振ると、釣銭を数え直してやっと残りのお釣りが戻った。
短いミハスの滞在時間に、そればかりじゃなかった。両替のために両替屋を探したが見付からないので、手近なホテルのフロントに飛び込んだ。ほっとしたのも束の間、戻るべき金額が違う。ポケットからスペイン語の手引書を取り出し、
――違う、違う!
と言うと、手に広げたお金を見ながらやっと納得したらしい。手を広げ大袈裟な身振りをしながら再び両替を始めた。

ミハスの闘牛場

その一方で、こんな地中海の片田舎にも、スペイン人の血が躍るらしい。地中海をのぞむ高台に世界で一番小さな闘牛場がある。生きた牛を殺す闘牛は残酷そのものと、毎年、動物愛護協会からお叱りを受けるが、
――あれは殺傷ではない、
既に芸術の域に達している、
と全く応じる気配がないのだそうだ。小さな闘牛場に、血気盛んな住民が集まって、血湧き、肉躍る一大イベントが繰り広げられるらしい。
余りにものんびりしたアンダルシアと、血気盛んなスペイン人の血、理解できるようで、よくわからない。気忙しいばかりの日本人の気質には、スペイン人の気質は理解しがたいかも知れない。

さてさて話は、飛んで火に入る夏の虫。出逢いがあり、出逢いが更に出逢いを呼びました。マドリッドのホテルで朝食に向かうエレベーターの中で、一人の女性が声をかけてきた。
――どうでした。夕べは眠れましたか?
との話から、スペインの強盗団が気がかりなことなどを話しました。旅は道連れ世は情け。以後は3人連れとなって傍目にもそう映ったらしい。
その当時、30代半ばの女性。人生を語るも涙、それぞれの想いと、失意と、しかし、しっかりと生きている女性の強さを見た気がします。セビリアのホテルではワインなどを買い込んで夜中まで人生談義に花を咲かせました。
この女性、旅なれた女性で、かつては旅行会社に勤務して旅のことならお任せというほど精通していました。

セビリャ

旅のツアーの中にひとり旅の男がいた。彼女いわく、女性のひとり旅は珍しくないけど男は・・、と言い、男なら個人旅行で行けば!と。要は男とあろうもの、それでは甲斐性がないではないかと言うわけです。ともあれ、ひとり旅の男、秘密のベールに包まれていました。
――秘蔵のワインを求めて旅をしている。
――スペインワインに精通している。ワインのことなら彼に訊け。
――スペイン料理の達人らしい、
などなど、とツアー仲間がささやく。しかし、結局は一人で黙々と旅をする雰囲気が却って謎を呼ぶらしい。そこで何はともあれ話しをするきっかけを、と。旅行後半のある昼食で、一緒に食べませんかと話し掛け、まずは話のきっかけを。旅行最終日のバルセロナでは、彼女に加えて夜は4人で大通りに迫り出したバルで我々と共に食事をしました。その彼、かつてはフランス料理を学び、今はスペイン料理の達人を目指して頑張っているという。楽しい夕べのひと時を過ごしました。
2018.4.13