四月の雪

思いがけない4月の雪――
8年前の4月17日のこと。いやはやという週末でした。そのときの週末は、長女の提案で、長男の会社の保養所のある山中湖に行くことになっていた。しかし長女は仕事の都合で、土曜の夜、現地に向かうことになった。ともあれ、土曜の朝、車で自宅を出発して長男を拾いながら山中湖に向かう。天気予報は雨。嫌な天気だなと思いつつ高速道路を走っていると、雨はやがて霙に変わり、激しさを増してゆく。道路にも霙が積もり減速して走っていると、橋の上ではトラックがスリップして進行方向を逆転して橋の欄干に突っ込んでいた。注意しなくちゃ、と思う間もなく高速道路は封鎖。一般道路を走ったが、その影響もあって道路は渋滞。当初の予定より1時間以上遅れて目的地に着いた。その頃には霙もあがって、その後は快調なドライブウェイ。第三京浜から江ノ島に向かい、西湘バイパスを走る。しかし、山道に入ると霙が降りはじめ、やがて雪に変わる。除雪した跡が残る道路に雪が積もっていた。
――4月に雪はないだろう!
とブツブツ愚痴も飛び出したが、スタッドレスタイヤやチェーンの用意もない。やっとの思いで2時過ぎに山中湖畔に到着し、湖畔のほうとう料理店でゆっくりと食事。その後、保養所へ向かったが、雪が積もって勾配のキツイ坂もある。長女を迎えに行くのに大丈夫かなと心配しながら保養所に着いた。
部屋は旅館並みで温泉もあり、まずまずだなと思っているとトラブルが発生。温泉風呂に入るとなぜかお湯が少なめ。エコか節約なのか、と思っていたところ、隣の女風呂では誰かがお湯を抜いてしまったという。そのため風呂釜が空焚きになって風呂は使えなくなった。原因はどうやら中国人の宿泊客。習慣の違いだろう、入浴後はお湯を抜くものと思ったらしい。
次のトラブルは夕食。この日の夕食は外食の予定で、予約を入れてなかったが、外は雪。億劫な気持ちもあったが、そのとき、
――食事の用意ができました、
との連絡。手違いだからキャンセルすべきだが、そこは穏便に、
――用意して戴いたなら戴きましょう、
と保養所で夕食を戴いた。これが美味しかった。保養所の管理人さんは恐縮して何度も謝っていたが、災い転じて福と為す。料理は旅館並みで、ゆっくり食事をすることができました。
長女はその日、大変な一日だったらしい。アイスランドで火山が爆発して、ヨーロッパの空港はどこも閉鎖。その影響でホテルの宿泊客にも影響が出た。飛行機は飛ばないし、延泊しようにもホテルは満室。他のホテルも同じような状況で、お客さんの中には、
――月曜の朝までにパリに行かなければならない。
  ヨーロッパのどこでもいいから行けませんか、
と頼み込んできたが、そんな状況はどこも同じ。航空会社に電話しても繋がらないし、一人のお客さんの対応に2時間以上要して、他の仕事も山積み。予定したバスを1本遅らせ、ようやく新宿のバス乗り場に着き、発車1分前に飛び乗ったという。
――今まででいちばん忙しい日だった、
と話していたが、その日はてんやわんやだったらしい。
しかし、保養所の管理人さんは愛想がよく親切。チェーンなしでバス停まで行けるでしょうか、と問い合わせたところ、お迎えに行きますよ、とわざわざバス停まで迎えに行ってくれた。ほんの少しのトラブルはあったものの、リカバリーは上々で、二重丸の対応でした。
翌日は、保養所の風呂が使えないので近場の温泉を探した。「紅富士の湯」という日帰り温泉だった。保養所から車で5分ほどの所にあって、入ってびっくり。大窓の向こうには麓まで雪を戴いた富士山があって、思わず、
――コレ、風呂屋の看板じゃないよな、
  本物だよな!・・。
目の前には真っ白な雪を抱いた富士山。一幅の美しい絵を間近に見て、この旅行の「運の悪さ」と「運の良さ」の両方を体験することができました。

僕が小学生だった頃――。
春先に車で山中湖までドライブして、湖畔のホテルに泊まった。前日から雪が降り、その夜も雪は降り続いていた。翌朝、カーテンをあけると、目の前には麓まで雪を戴いた富士山・・。そのときの衝撃、そのときの感動。神々しいほど眩しい富士山があって、その美しさと迫力に心躍りました。麓まで雪を纏った富士山は、あたかも白い衣を着た舞姫のようで、これに優る美しさはこの世にはないように思えた。

2018.4.6