
九州の思い出では 、
草千里の風景が懐かしい。
道は阿蘇の外輪山に沿ってなだらかにうねり
周り一面の草原の中に、
草を食む牛の姿が見える。
車は大きく弧を描きながら走り、
その途中に
トウモロコシ売りのおばさんがいて
車が通りすぎるたびに大きく手を振り、
――トウモロコシ、甘いよぉ!と叫ぶ。
その声に誘われて車を止め、
トウモロコシを頬張る。
確かに甘い!。
顔をほころばせて食べました。

五ヶ瀬川の高千穂渓谷。
その風景も懐かしい。
高千穂は日本書紀の天孫降臨の地で、
近隣には天岩戸神社があり、
天照御神様がお隠れになった、
という伝説があるところ。
そんな神話の世界があるせいか、
高千穂渓谷の風景も神々しい。
V字に切り立った谷川の水は、
神秘的なほど深い緑を湛え、
その谷をボートで漕ぎながら
崖の上から流れ落ちる滝を見ていた。
神々の宿るところ。
高千穂の峰々と阿蘇の外輪山。
九州の中にあっても、
この辺りは異種混合の別次元の世界があって
なにかしら違う匂いを感じました。

九州の思い出を綴るうちに、
もうひとつのことを思い出しました。
長崎の原爆資料館のことーー
僕らが訪ねたときは
長崎文化会館にあって
古びた粗末な建物。
そこに原爆にまつわる資料が、
展示されていました。
先日、ポーランドに行って、
アウシュビッツの収容所を訪ね、
そのとき原爆資料館の記憶が重なりました。
アウシュビッツは世界遺産。
世界に誇る文化遺産ではなく、
人類が忘れてはならない負の遺産として。
長崎の原爆資料館は、
世界遺産ではありませんが、
アウシュビッツと
同じ根っこにある史跡。
人類の記憶に刻み込んで
決して忘れてはならない負の物証です。
とはいえ、
長崎の原爆資料館を訊ねたときは
さほどの期待もなく、
なんとなく立ち寄ったに過ぎませんでした。
それでも資料館に並んだ展示品を見て
圧倒されました。
その当時、
館内の天井下の壁一面には、
巨大な写真パネルが掲げられ、
焼け爛れた長崎の町を映し出し、
被爆直後の惨状を伝える絵や、
写真、被災物などが展示されていました。
跡形もなく焼け落ちた家や建物、
その中に佇む人がいて
うなだれて悲しげでした。
写真の隣には一編の詩があり、
その詩が写真の映像と重なって、
激して思わず涙がこみあげました。
人は過ちを犯すーー。
日本は第二次大戦で莫大な被害を被り、
そして知りました。
自ら引き起こした戦争ではあるけれども、
決して戦争はやるまい、
忘れまい。
それが日本人の誓いであったと思います。
2018.3.9、