Ⅰ.ローマの休日


ヨーロッパに行って痛感するのは、日本の治安の良さ。日本では当り前のことも海外ではそうじゃない。イタリアは世界的な観光地。しかし、治安が良いとは言えない。
海外ではとかくトラブルに巻き込まれやすい。泥棒や、スリ、置き引き、ひったくりといった類がたくさんいる。とりわけ日本人は狙われやすい。小金持ちで安全が当たり前の日本人は、無防備で、鴨にするには格好の餌食となる。ガイドさんはその辺りをよくご存じで、折りを見ては注意を促し、その声にうんうんと頷くが、それでも被害に遭ってしまう。かくいう僕自身も日本では滅多にお目にかかれないような、ひったくりや泥棒の類は見てきた。運よく被害に遭わなかったが、これがイタリアの、これがローマの、と何度思ったことか。裏を返せば、日本は治安がすこぶるよい。日本では当たり前のことも海外では通用しない。

◇ローマの小さな泥棒さん
ローマのとある観光地――。
なにげなく歩いていると、ジプシーらしい子供たちが寄って来る。新聞をかざしながら、どうやら新聞を買ってくれ、と言っているらしい。そんなものはいらないと手を振ると、その子の妹らしい小さな子がすり寄って来る。少年に気を取られていると、その隙に女の子がポッケットに手を入れてくる。とっさにその手を払いのけて、その場を離れたが、ガイドさんによれば、そうした子供はたくさんいるという。ローマにいるジプシーは貧しい。それで日銭を稼いで生活する泥棒さんが、たくさんいるというのです。
◇タクシードライバー
ローマでのエピソードをひとつ。
イタリアはどこを切り取っても、歴史的文化遺産で埋め尽くされ、息をのむような素晴らしい景色を見せてくれますが、イタリアの特筆すべきもうひとつの特色は、陽気なイタリア人。ローマのスペイン階段の前の通りは、ブランドショップが並び、ウィンドーショッピングを終えてホテルまでタクシーに乗る。行き先を告げると運転手は言葉が通じないのもかまわず、なにやら忙しく話しかけ、「コレ日本のアニメソングね」と言う風に、カセットをガンガン鳴らす。こちらは急いでいるわけでもないのに、アニメの曲に乗せて飛ばすわ飛ばすわ。ハンドルを右に切り、左に切り、車の間をすり抜けて、客が肝を冷やすのもお構いなしに、曲芸まがいの運転を披露する。そして、ホテルに着けば「どうだ、早かっただろう!」と言わんばかりに流し目を向けてくる。冷や冷やものの運転だったが、拍手喝采してチップを弾むと、運転手の頬はさらに緩む。まぁ事故ったわけじゃないし、イタリアのポンコツのファイアットに乗って、イタリアらしい体験をしたということか。
◇陽気なイタリア人
陽気なイタリア人はこんな一面もある。
いつだったか某ラジオ番組でイタリア人男性を語る場面があって、俳優の中村雅俊氏が、
――イタリアの男の人って、
可愛い娘を見ると必ず声をかけるんだよね。
それを不思議に思うと、
――どうして!あんなに可愛いいんだよ!
声をかけなきゃ損だよ!
とまぁこんな風であるそうな。確かに物怖じしない、駄目もとで突進する陽気な気質は、イタリア人特有の気質らしい。
◇ローマの駐車事情
ローマは歴史遺産の宝庫。
今も市内の地の底には至る所に遺跡が埋まっている。ひっくり返せばそこら中が遺跡だらけだという。だから、ローマでは住む人の安全を優先して、文化遺産の発掘には手が付けられない。そんなローマは石畳が多くて走りにくい。そして、イタリアの車は大半がボロ車。イタリアといえばフェラーリを思い出すが、それはセレヴ用。一般市民はフィアットという大衆車に乗っている。市内は道路の横に二列で縦列駐車。遺跡だらけのデメリットもあって、駐車場が少なくて仕方ないが、車と車の間は僅か数センチ。どうやって出るの?との問いに、ガイドさんが教えてくれた。前進とバックを繰り返して、車を出すための隙間をこじあけるんです。当然、車に傷もつくが、バンパーはそのためにあるんだ、とあっけらからんとしている。日本だったら訴訟になりかねないが、イタリアではこれが当たり前らしく、それを心配するなら車に乗るな、との理屈らしい。だからイタリアの車はみんなボロ車!!

◆ローマの休日
さてローマのこと。
全ての道はローマに通ず、の格言を引くまでもなく、かつてのローマは、あらゆる権力が集中し、世界の文化の発祥の地だった。そしてその威厳は今もなお、その名残をとどめている。ローマといえば「ローマの休日」を思い出す。若きオード-リー・ヘッブパーンの、あの輝くような瞳が印象的で、世界中の人を虜にした。某国の王女・アンと新聞記者が、アイスクリームを食べたスペイン階段、手をかまれた?ライオンの像など。そこには今も大勢の観光客が押し寄せて、彼らに、ここがローマの休日の、あのシーン、と思い出させてくれます。(続く)