千葉市/ホキ美術館
5年程前だろうか、日曜美術館というテレビ番組があって、このとき紹介されたのがホキ美術館でした。その中で部屋の中を描いた絵が紹介され、柱や家具の細部に至るまで緻密に描かれて、本物より本物らしく、人物画も本物を超えて実に活き活きとして、その迫力が胸に迫りました。是非、この美術館を訪ねて実際の絵が観たいと思いましたが、美術館は千葉市郊外にあってアクセスが悪く、車で行くにも遠い。しかし、とある日曜日、やっぱり行こうと意を決して足を運ぶことにしました。 ↓生島 浩「5:55」
素晴らしかった。圧倒されました。眼にする一点一点に衝撃が走り、今まで見た絵とは全く別の感動がありました。美術館は、廻り廊下のようになだらかにうねり、階下から階上への移動は廊下で繋がって壁に沿って絵が並んでいる。それら全てが写実画。かつてはクールベなどの写実派画家に代表される西欧画壇の本道でしたが、写真の登場で衰亡の一途を辿ってきました。しかし日本では今、これら写実画の絵が見直されている。そこには写真にはないなにか。人の温もりや、手触りの感触、対象物が目の前で語りかけるような存在感。それら全てが圧倒的な描写力で、写真を超えた表現力がある。それは絵の内なるエネルギー。見るほどにその迫力が胸に迫ってきました。対象物を忠実に、精確に捉えるのであれば写真で事足りるだろう。しかし、目にした絵は、写真を超えた別次元の世界観が拡がっていました。人物画は勿論、草木や風景画、静物画に至るまで、どの絵も素晴らしいものですが、その中でも一点の絵が目に止まりました。生島浩の「5:55」という肖像画でした。左側の窓から斜めに陽が射して女性の頬を染め、写真にはない微妙な光を落として、それが美しい。身にまとう服の襞が軟らかく波打ち、指先のしなやかさに女性の気品が漂う。思わず引き込まれるような妖しい輝きがありました。
この女性像は生島浩による2010年の作品。絵の誕生にまつわるエピソードが面白い。モデルは見ず知らずの女性。近くの公民館で働いていたこの女性を見かけ、何度も足を運んで、是非、モデルになってほしいと頼みこんだが、そのたびに断られ続けた。それでも諦めきれずに、知人3人を介してようやく条件付きで描くことができたという。それが「5:55」。条件のひとつに帰宅時間があったそうです。
この美術館は他にも森本草介や島村信之など、日本画壇を代表する写実派の絵が展示されていますが、それら全ての絵が見事。
ホキ美術館は本物の素晴らしさを十分に堪能させてくれました。
2018.2.2



